第95回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編」の見どころ(Ⅱ部)
2024年05月27日 (月)
Ⅱ部では、「再生産、消費される古代文化」と題して贋作資料を展示しています。本展では、贋作を「古美術マーケットでの売買を目的として製作あるいは加工されたもの」と定義して、①全くの贋作にくわえて、②破損部分を補修したものや、③もとはレプリカ土器であったと推定される資料もその範疇に含めています。なお②については、部分的贋作と表記して展示しています。
II部の見どころは何といっても、出品数の多いナスカの土器の贋作です。一見本物のように見えますが、資料の近くに置いた真作の図像パネルと見比べてもらうと、違いに気づいていただけると思います。私には、この違いが単なるミスではなくて、贋作のつくり手が意図的にアレンジしたように思えて仕方がありません。彼らが贋作をつくり始めた頃は、古代の土器を正確に復元することに注力していたかもしれませんが、それで物足りなくなったのか、別の神様の属性を加えたり、本来とは違う描き方をしたりする箇所がみられます。自分の感性の方が優れているとでも言いたそうな印象を受けます。こうした人間臭さが垣間見えるのが贋作の面白さだと思います。
そして、贋作づくりと比較するために、ナスカのレプリカ土器や土産物も展示しています。現在、ナスカではガレゴレス一家とセグーラ一家が、文化庁の許可を得てナスカのレプリカ土器をつくり続けています。レプリカ土器の底には、彼らがつくったことを証明するサインが残されています。ナスカでは贋作づくりが盛んに行われていましたが、彼らのようにレプリカ土器をつくることで古代ナスカ文化を再生産し、その保護に努めている陶工もいます。
このようにII部では展示資料を通して、古代文化をめぐる様々な人間模様を感じ取っていただければと思います。なお、ペルーで贋作づくりが行われるようになった契機や変遷については、Ⅱ部冒頭のパネルにまとめていますので、併せてご一読いただければと思います。
【第95回企画展ブログ5】
海外民族室 荒田