「祈りの考古学」展-奇怪な容貌の遮光器土偶と手のひらサイズのX字形土偶-
2019年08月06日 (火)
今回の企画展「祈りの考古学―土偶・銅鐸・古墳時代のまつり―」では展示室に入った最初の展示ケースで土面と遮光器土偶がみなさんをお迎えしています。
縄文時代晩期の遮光器土偶は横長の目が顔の大半を占めていて奇怪な容貌をしています。目の中央には線が横に引かれています。遮光器とは極北の民族が雪原で狩りをするときに反射光から目を守るために用いた横に長いスリットの入ったゴーグルのことですが、あたかも遮光器を着けているかのようにみえるので、この名がつけられました。実際に縄文人が遮光器をつけていたわけではありません。おそらく、この容貌は森や川の精霊を表しているのでしょう。
土偶は多くが女性を表していて、男性のものはほとんどみられません。よく見ると、この遮光器土偶も胸の表現があって、女性であることがわかります。土偶は女性の出産などに関連して生命の誕生や再生のほか、豊かな食糧確保のためのお祈りなどに使われたのでしょう。1万年以上前に出現した土偶は、これまでに15,000点以上が出土しているといわれます。ですから、すべてが同一の用途であったとは断言できません。なかには縄文時代晩期のX字形土偶のように大きさが5cm前後の手のひらサイズのものがみられます。その大きさゆえに細部を表現されたものはなく、文字通りその平面形がX字形をしているのでこの名があります。多くの土偶が壊されて出土するなかで、手のなかに入る程の大きさのX字形土偶の1割近くが完形であるというのは、あるいは身につけて護符的につかわれていたのかもしれません。
【第84回企画展ブログ5】
考古美術室 H