ブログ布留川のほとりから

お洒落は「平等」で「自由」 ~ おしゃれ話その2

2022年01月26日 (水)

江戸時代は身分制社会で、立場によって髪形は規定されていますが、身分の上下なく髪を飾ることができました。幕府は庶民が高価な材料を用いることは禁じますが、櫛を髪に挿すこと自体を認めないわけではありません。飾り櫛には当然ながら価格に差があり、町人でも裕福な人たちは鼈甲(べっこう)や金銀飾りの櫛でお洒落を楽しみましたが、長屋の住人は擬甲(ぎこう、鼈甲に似せたもの)や真鍮(しんちゅう)を蒔いた櫛でもぜいたく品だったことでしょう。しかし、素材は違っても同じ櫛です。大名の奥方も、庶民も、遊女も、飾り櫛を挿すことができました。このようなことは同時代のヨーロッパでは考えにくく、装身具は王侯貴族などごく一部の特権階級の独占物でした。フランス革命で蜂起する民衆と貴族の髪形や飾りは違いが大きく、近世の風俗屏風や浮世絵版画を見たときの往来する人々のたたずまいの差はそれより小さく思えます。日本は、日常生活の中で髪飾りのお洒落をある程度楽しめた「自由」な国だったと言えるのではないでしょうか。

 

『けいせい盃軍談』正徳(1711~1716)頃(天理図書館蔵)より。
左は大店の内儀(おかみさん)で、右は夫婦げんかの最中の長屋の女房です。同じような髪形で櫛を挿しています。このころはまだ簪を挿していません。

 

第88回企画展ブログ3】

日本民俗室 H 

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