刊行物

天理参考館報

天理参考館報 第36号

A4版・カラー図版2P・モノクロ55P、税抜き500円

2023.10発行

頒価:550円

(学)天理大学出版部


I 論文・研究ノート

 天理参考館所蔵江戸期絵馬の自然科学的彩色調査……青木 智史

天理参考館は質量ともに豊かな絵馬資料を収蔵している。調査の対象としたのは江戸時代前半の紀年銘を伴う四点の絵馬で、詳細な内容の検討と用いられている顔料について自然科学的な調査を実施した。調査の結果、一点の絵馬には真鍮泥が用いられていることが明らかとなり、江戸時代初期の貴重な使用例であることがわかった。また、別の一点からは近年の修復の可能性が見いだされ、今後の調査研究にとって重要な知見が得られた。その他にも江戸時代前半に絵馬に用いられた顔料についての有意な研究成果が得られた。

おもちゃ絵「ちんわんぶし」考察……幡鎌 真理

浮世絵版画にはおもちゃ絵と称する子どもを対象とした刷物があり、天理参考館では127点収蔵する。このなかには、同じカテゴリーの事物を文字と絵で一覧して見せるものづくし絵というジャンルがある。さらにこのうち、子どもの滑舌を良くすることを目的に、擬態語や擬音語を多用して列記した「ちんわんぶし」がある。「ちん、わん、ねこにゃあちう」という文言から始まるためにこのように呼び慣わされた。今回は館蔵品1点と故肥田晧三氏蔵品2点、天理図書館蔵品1点、東京都立図書館蔵品1点を取り上げ、題材として描かれている郷土人形との関わりや京大坂独特の言葉遣い、時代の変遷によって変化する呼称に注目して考察を加えた

 中国大陸の古代熨斗(二)─新器種誕生,前漢~後漢時期─……江 介也

熨斗(古代のアイロン)誕生の背景要因は、前漢時期における衣服・布帛類の爆発的な生産力拡大と流通、皺に対する美的感覚の洗練、主要織物素材であった絹・麻の皺の寄り易さ等により、アイロンがけの必要性が前漢中後期に高まったことにあると考えられる。そして同期の多様な有柄器や銅盆などから、熨斗の柄部や火皿部として最適な属性が選択され新器種が生まれた。後半では両漢時期の熨斗の型式と変遷について整理・考察した。
ルネサンス期の銀製角杯に関する補論……巽 善信・青木 智史

銀製角杯は本誌第31号で紹介したもの(巽・青木 2018)である。古代の遺物を参考にして作られたルネサンス期の作例であることを明らかにした。ただし、表面を観察すると、薄皮がめくれるように剥がれたところから、白い地金が見えている箇所がいくつか認められ、銀の上に別の材質(銅)を被せている可能性は否定できない。つまり、古色を付けるためにわざわざ銀に銅を重ね合わせた贋作かもしれないという疑義が生じかねない。そこでこの点を明らかにするために再度蛍光X線分析を行い、実態を確かめることにした。本稿はその報告と若干の考察を加えたものである

II 事業概要
 1 展観
  (1)企画展・巡回展 (2)天理ギャラリー展 (3)その他の展覧会
 2 調査研究
  (1)海外民族室 (2)日本民俗室 (3)交通文化室 (4)考古美術室
 3 資料収集・保存
  (1)収蔵資料概要 (2)新収蔵資料
 4 普及活動
  (1)入館者数 (2)トーク・サンコーカン(公開講演会) (3)長月講座 縄文土器を読み解く(公開講演会) (4)ミュージアムコンサート「参考館メロディユー」 (5)ワークショップ (6)マンデートーク (7)天理市観光協会共催 歴史講座「大和の中のヤマト」―物部の里(布留遺跡)― (8)令和4年度 文化庁 innovate MUSEUM事業「発信!どこでもミュージアム」 (9)その他のイベント 夏休みこどもひのきしん 夏休み限定企画「おやさと謎解きウォークin参考館」