天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化木製ケロ(刻文)(もくせいケロこくもん)

ペルー
インカ帝国 後1450年頃~1532年
高24.0cm 口径19.0cm 木製
資料番号:66-849

展示中 1-0

本例は、木製のコップ型の器「ケロ」で、インカ帝国で使用されたものです。インカ帝国は、ペルー南高地のクスコを中心に、15世紀半ばから16世紀前半にかけて勢力を拡大しました。最終的に、コロンビア南部を流れるアンカスマヨ川を北端として、南はチリ中部のマウレ川まで南北4000㎞をその影響下に置きました。また東西方向は、太平洋沿岸からボリビア、そしてアルゼンチンの北西部を含み、インカ帝国はわずか1世紀足らずでアンデス一帯を治める大帝国になりました。
本例は、インカ帝国特有の木製ケロで、側面に刻線で幾何学文様が施されています。口縁部と側面中央に設けられた帯状の区画には、内側を格子文で埋めた菱形文が連続して彫られ、上下に分けられた区画には、入れ子状になった長方形の幾何学文様がそれぞれ6つずつ配置されています。
古代アンデスでは、ケロにトウモロコシの醸造酒“チチャ”を入れて供する習慣がありましたが、インカ帝国では重要な祭とされるカパック・インティ・ライミにおいて、太陽神に祝杯を捧げるために用いられました。なおインティ・ライミとはケチュア語で太陽の祭りを意味します。またケロは、帝国の拡大に伴い、臣従の誓いの徴(しるし)としても用いられました。インカは征服地域の首長たちとクスコから持参したケロで酌み交わし、そのケロを征服地に残しました。その慣習が民衆に広がり、訪問の際の礼儀として主客双方が1組のケロで酒を酌み交わして関係を密にするようになったと言われています。このように、ケロは様々なレベルの儀礼で用いられ、神や人との絆を深める役割を担っていたのです。

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