天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化霊鳥ガルーダに乗るヴィシュヌ神(れいちょうガルーダにのるヴィシュヌしん)

インドネシア バリ島
20世紀中頃
高87.8㎝ 木
資料番号:01347

展示中 1-5

本例は、霊鳥ガルーダにまたがって大空をかける維持神ヴィシュヌを象ったヒンズー教尊像です。スンディと呼ばれ、バリ島の各地に残る王宮の建築物や村落の集会所の天井裏にある肘木にとりつけられています。こうした装飾材には波羅蜜(はらみつ)の木が用いられ、彫刻した後に顔料で彩色されます。
ガルーダとは古代インドの神話やインド二大叙事詩「マハーバーラタ」と「ラーマーヤナ」に登場する半人半鳥の姿をした霊鳥のことです。太陽のように輝く光を発するため、日本では一般に金翅鳥(こんじちょう)と訳されています。ガルーダは、ヒンズー教三大神の一柱(ひとはしら)である、世界の維持を司るヴィシュヌ神の乗り物として崇拝されています。また仏教にも取り入れられ、仏法を守護する八部衆の一つである迦楼羅(かるら)としても崇敬されています。
「マハーバーラタ」にはガルーダの誕生とヴィシュヌ神との出会いについて記されていますが、ガルーダがヴィシュヌ神の乗り物になった経緯については、大聖仙の第三夫人であった母親の境遇と不死の薬アムリタが関係しています。
ガルーダの母親は、大聖仙の第一夫人でもあった彼女の姉の計略により奴隷にされてしまいます。ほどなくして母親が生んだ卵からガルーダが生まれますが、伯母の奴隷になり悲惨な境遇に耐えている母親の姿を目の当たりにすることになります。そして、彼女を解放するために、戦いの神インドラが守る不死の薬アムリタをとってくることを約束するのです。
ガルーダは幾多の苦難を乗り越えて天界に達します。天界では神々の激しい抵抗にあいますが、それに打ち勝ちアムリタを手に入れます。そして、母親のためにアムリタを口にすることなく大切に持ち帰るガルーダが、ヴィシュヌ神の目に留まるのです。心から母親を想うガルーダに感銘を受けたヴィシュヌ神は「望みがあれば叶えてあげよう」と話しかけます。するとガルーダは「いつもあなたの側にいたい。そしてアムリタを飲まなくても不死身になりたい」と答えます。ヴィシュヌ神がそれを叶えることを約束すると、ガルーダは返礼のつもりで「自分もあなたの望みをかなえてあげたい」と言います。ヴィシュヌ神は言葉通りに受け取り、「それでは自分の乗り物を曳(ひ)いて天空を駆け廻ってもらいたい。そうすればいつも自分の側にいることができるだろう」と答え、ガルーダはヴィシュヌ神の乗り物となったのです。
ヴィシュヌ神と約束を交わしたガルーダは、母親を解放するためにアムリタをもって急ぎます。途中、アムリタを守護するインドラ神が現れて雷電を投げつけられますが、ガルーダはこれをかわして、黄金に輝く羽を一本抜いて放ります。その羽のこの上ない美しさに神々は感嘆し、インドラ神もガルーダを見逃すのです。こうしてアムリタを届けたガルーダは、無事に母親を解放することができたのです。