旧暦8月15日の中秋節は、一年を通して最も美しい満月が見られる日とされ、家ごとに庭に祭壇を設けて月を祀ります。「月光馬児(ユエコンマール)」(神の画像が描かれた紙。上部に月の神、下部に月の宮殿や仙草を搗(つ)く兎の図が配されることが多い)を2本のコウリャンの茎に付けて地面に立て、その前に瓜・枝豆・鶏頭花・月餅などを供えて礼拝し、家族で酒盛りをして月を愛(め)でます。この時に「兎児爺」という、杵(きね)で仙草を搗く兎をかたどった土人形を一緒に並べることがありました。
中秋節の行事に兎児爺を用いるようになったのは、明時代以降ではないかと考えられています。かつては中国北部で多く見られ、毎年中秋節の直前になると露店などで販売されました。本品は甲冑(かっちゅう)を身に着けた上に赤い長衣(ただし裾付近は青色)を羽織り、周囲を蓮の花と水鳥に囲まれて鎮座しています。首には布を巻き、右手には仙草を搗くための杵を持ちます。長い耳と顔は兎の姿で、その他はどちらかといえば人間に近い外見です。
兎児爺は粘土を型に嵌(は)めて作られます。内部は空洞で、前面には彩色が施され、つやを出すためにニス状の塗料が塗られています。背面は地肌剥(む)き出しの状態ですが、胸部の裏側にあたる部分が少し盛り上がり、その上部に径1mm程度の小さな穴が2つあけられています。更に、正面から見て人形のベルトの延長線上(蓮の花などを象った背景部分の最も高い位置)にも、左右1つずつ穴(上向きで径2mm程度)があります。胸部裏側の穴は旗を挿すためのものと思われますが、残念ながら旗そのものは残っていません。なお、耳部分は取り外しできるようになっています。
本品は高さが約73.5cmとかなり大型の兎児爺です。しかし実際に販売されていたのはもっと小さなサイズが多く、小型のものは中秋節が済むと、子供におもちゃとして与えられました。当館は本品の他にも、虎や獅子あるいは馬に乗った大小さまざまな武人姿の兎児爺を所蔵しています。