この乗車券は関西鉄道の大阪駅(正確には網島駅)から四條畷駅、加茂駅経由大仏駅までの三等通常往復乗車券です。発着駅名が印刷された常備券で運賃は1円10銭。中央にミシン目があり、右が往片(行き)左が復片(帰り)で、日付はなく未発売で朱色の見本印が押印されています。台紙には地紋はなく、三等を示す赤色ベタ塗りで、復片には分かりやすく「復」の字が白抜きで表示されています。
大仏駅は今から120年前の明治31年(1898)4月19日に東大寺の約1.8km西側に開業しました。関西鉄道は多数の乗降客が見込める奈良駅への早期乗り入れを目指していたのですが、23年に奈良駅を設置した大阪鉄道や、29年に同駅に乗り入れを果たした奈良鉄道との調整に難航したため、大仏駅を一時的にターミナル駅として運用していました。32年、関西鉄道が奈良駅まで開通した後、大阪駅から大仏駅・奈良駅までが同一運賃で「大阪より奈良」と表記されたため、本資料は大仏駅開業直後のものと考えられます。
関西鉄道は名阪間の路線において、官設鉄道と熾烈な貨客獲得競争を繰り広げたことが知られていますが、奈良駅乗り入れ完了後は大阪鉄道(湊町駅~奈良駅間、現在の関西本線)との間においても、阪奈間で競争しました。その間、関西鉄道では上記の正規の運賃はほとんど適用されず、往復なら半額などの大割引が通常化していましたが、それも明治33年6月関西鉄道による大阪鉄道合併で終了しました。