中国の布製玩具は、人や動物などさまざまなものを象(かたど)っています。その中で最も広い地域で愛されたのが、虎のぬいぐるみ「布老虎(ブーラオフー)」です。10cm以下の小型のものから50cm以上の大きな作品もあり、子供用の玩具やイスとして使用されました。写真中央にあるのは特に大型の布老虎で、アップリケや花模様の彩色を施した布に木屑(きくず)を詰めて作られています。 かつて中国大陸の東北部では、親戚を集めて生後3日目の赤子に産湯(うぶゆ)を使わせる「洗礼」または「洗三」と呼ばれる儀礼が行われました。この時、棗(なつめ)・卵・落花生などと共に布老虎を赤子に与えましたが、それは親族の女性達が新生児のために心を込めて作ったものでした。 布老虎には多種多様な形状があります。その中には、腹部が地面に触れるほど脚が短い、または頭部が2つ付いているなど、実物の虎とはかけ離れた外見の作品も含まれます。しかし全てに共通する特徴は、虎という獰猛(どうもう)な動物がモチーフにもかかわらず、ユーモラスかつ親しみを覚える姿をしていることです。 中国には、虎を象った帽子や靴・衣装などを、幼児に身に付けさせる風習があります。中国で虎は百獣(ひゃくじゅう)の王(その印として布老虎の額には「王」の字が描かれている)であることから、それらを着ると「虎の強さにあやかって物を恐れない子供になる」とされました。同時に、虎には魔除(まよ)けの効果があることから、「健康で長生きすることができる」とも信じられていました。玩具として子供に身近な存在だった布老虎にも、同様の願いが込められていたのでしょう。