天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化把手付き単注口壺(とってつきたんちゅうこうつぼ)



ペルー北海岸
中期シカン初期(後950年頃-1000年頃)
高12.7㎝ 土器
資料番号:28695

展示中 1-0

本例はランバイェケ(シカン)文化の単注口壺で、非常に精巧につくられた資料です。紋様は極めて鮮明で器壁がとても薄く、手に持った時の軽さには驚かされます。
把手は中心線上に取り付けられ、湾曲部分に扇形の頭飾りをつけた人物と縁なし帽子をかぶった人物が向き合った状態で配置されています。
胴部は上下に二分され、上部には浮彫紋でモチーフが施されます。中心線で区切られた両面にはそれぞれ、両手に笏杖(しゃくじょう)を持つキツネと推定される動物が向かい合わせで配置されています。キツネはシカン神の従者であると考えられていますが、どのような役割を担っていたかは不明です。また、周囲の無数の点紋は研究者の間でピエル・デ・ガンソ/piel de ganso(スペイン語で"ガチョウの肌”の意)と呼ばれていますが、具体的に何を表していたかは分かっていません。
シカン神は本例にはみられませんが、目尻が吊り上がったようなコンマ状の目をした仮面のような顔で表現され、頭飾りをつけています。ランバイェケ文化を代表する器形の注口部にはシカン神の頭部が象られ、その両脇に動物や人間の従者が表現される場合があります。
ランバイェケ文化はペルー北海岸のランバイェケ地方を中心に紀元後850年頃から1375年頃まで栄えた文化です。巨大なピラミッド型神殿が数多く築かれ、高い冶金技術を持っていたことでも知られています。この文化は現地ではランバイェケの名で呼ばれていますが、1977年からランバイェケ地方で発掘調査プロジェクトを開始した島田泉氏によって1983年にシカンの名が与えられました。シカンは「月の家」もしくは「月の神殿」を意味する古代ムチック語にちなんだものです。この文化の改名は土器編年の問題を解決する過程で行われましたが、研究者間では文化名をめぐって現在でも混乱が続いています。今後さらに調査が進展して正しい文化像が提示されることが求められています。