いつの世も日々の暮らしには悩みがつきもので、それを解決するため人々は様々な事物を考えつくり出してきました。その中で馬を神霊の乗りもの、依りましとする信仰は古来からあり、生きた馬から馬形(うまがた)、さらに馬の絵と多様な奉納物を生み出してきました。一般的に神仏に祈願奉納するために馬を描いた板絵を絵馬と称していますが、必ずしも図柄は馬だけではありません。この絵馬は奈良の興福寺東金堂から発見された絵馬の一つと思われ、智恵をつかさどる東金堂の文殊菩薩(もんじゅぼさつ)に当時の学僧が、試験合格のために奉納したようです。闊達(かったつ)な筆致で、菩薩の眷属(けんぞく)である唐獅子と御者の優填王を描き、裏面には祈願文が書かれています。今日盛んな学業成就の絵馬の先例の一つといえるでしょう。