羊角燈は慶事等の際に、神前に吊り下げて使用します。火屋(ほや[火を覆う透明の筒])は羊の角を加工して作られています。内部に蠟燭(ろうそく)を立てて火をつけると、半透明の火屋がガラスのように光を透過させることにより、幻想的な雰囲気を醸(かも)し出します。なお、火屋の上部に開いた穴の縁(ふち)は鼈甲(べっこう)、燭台(しょくだい)と骨組みは銅でできています。
羊角燈の制作方法には諸説ありますが、その一例を紹介します。まず質の良い羊の角を選び、円筒形に切り取ります。この角を熱湯に入れ、大根の千切りと一緒に煮ます。角がやわらかくなったら、パイプ状の角の内側に紡錘(ぼうすい)形(円柱形の両端のとがった形)の木型を押し込みます。そして木型の両端を持ち、平らな場所で羊角を下方向に強く押し付けながら転がします。ある程度角が薄くなったら再び煮沸し、木型を入れて転がす、という2つの作業を繰り返します。なお2回目以降の工程は、押し込む木型を徐々に大きな物に替えながら行います。羊角が充分に薄く、透明に近い状態になると、最後に表面を木賊(とくさ[トクサ科のシダ植物。茎が堅く、物を研ぎ磨くのに用いる])と灰で研磨して仕上げます。
また、火屋にみえる「樹下に戯(たわむ)れる童子」の絵は、膠(にかわ)で溶いた顔料を用いて描かれています。絵の輪郭部分は外側から金泥で線描されていますが、それ以外の絵は全て火屋の内側から描かれています。内側に彩色するためには、穂先を垂直に曲げた筆を上部の穴から差し入れて描くという、高度な技術が求められます。
羊角燈の制作には多大な労力が必要となるため、ガラス製の火屋が普及すると姿を消し、現在では実物を見ることは難しくなりました。本品は、動物の角質を利用した燈火具の歴史を知る上で貴重な資料です。