この瓢箪でできた呪薬入れは、プユマの男たちがかつて首狩りへ赴く際に使用したものです。首狩りは台湾の各原住民族グループが今から100年ほど前まで行っていました。敵対するグループへの戦争、襲撃は突然起こることももちろんありますが、儀礼として村の粟の収穫後、敵の集落へ首狩りに向かうことがありました。これは首狩りをすることで次の年にさらなる粟の豊作が約束されるという伝承があったからです。
首狩りはこの他にも霊的な力が宿る首(頭部)を取ってくることで神や祖先が喜ぶという宗教的な意味合いがあり、それ以外にも悪霊を祓うため、男の武勇を誇示するためのものでもあったといいます。
プユマの首狩りでは三夜連続で吉夢を見た男が、まず本品のような瓢箪に水と青色のトンボ玉(呪いをこめたビーズ玉)を入れ、出発前にこれを持ち、庭先で呪文を唱えて太陽と先祖へ戦勝の祈願をします。
そして敵の村に近づくと、再度、吉夢をみた男がこの瓢箪をもって祈祷します。植物の茅で銃、刀、槍などの武器、蜂の巣の模造品を作り「これらは敵の村の武器であるが、このように役に立たなくなるぞ」と唱えつつ、これらの茅を引き裂き、青色のトンボ玉をその中央に括り、この“タトブック”と一緒に敵の村へ投げ入れるのだといいます。すなわちこれは敵に呪いをかけて無力化させる道具であり、同時に太陽と先祖の霊力を引き出すための媒体ということができます。
上部の栓には毛糸玉がつけられており、本体の瓢箪と木の棒全体には赤色の顔料と植物油、漆を練り合わせた塗料が塗られています。瓢箪の背面についている木の板状の棒は腰に差すためのものと考えられます。上記のように本来は敵の村へと投げ入れてしまうもののようですが、本資料はこうして今も残っていることから戦勝祈願のみに使われたのでしょうか。