泥娃娃は、女性が子授けを祈願するために使用する土人形です。「娃娃」は中国語で「赤ん坊、または人形」なので、泥娃娃は「泥人形」という意味になります。本品は型抜きした粘土を乾燥させ、表面を彩色しています。焼成していないため、非常に壊れやすくなっています。
かつて中国大陸では、子供を授けてくれる「註生娘娘(チューションニャンニャン)」が広く信仰されていました。子供を望む女性は、註生娘娘が祀られている娘娘廟(ニャンニャンびょう)に参拝し、神像の前にある泥娃娃を貰い受けます。そして人形の首に赤い糸を懸けて、自宅に持ち帰ります。または廟の前にある露店で泥娃娃を購入し、一定期間神像の前に供えた後で持ち帰ることもあります。望み通りに子供を授かると、持ち帰った泥娃娃を倍にして元の場所に返す、という習俗が約半世紀前まで行われていました。
本品は、牡丹(ぼたん)の花を抱き、蓮の花の上に座る男児をかたどっています。牡丹は中国大陸では「富貴」の象徴です。また、蓮は「連」と同音になることから「連続」の意味があります。つまりこの泥娃娃は、「連生貴子(れんせいきし)」(富貴をもたらす優秀な子供がつぎつぎと生まれる)を表しています。その他に、魚(裕福になる、もしくは子宝に恵まれる)・石榴(ざくろ)(子宝に恵まれる)・桃(長寿)などを持つ泥娃娃もあります。
本品は、大石橋(だいしゃっきょう)(現在は遼寧省に属する都市)で販売されていた泥娃娃です。20世紀前期の大石橋には、中国東北部(旧満州)最大の娘娘廟があり、註生娘娘の誕生日(5月頃)には盛大な祭が行われました。泥娃娃は、この祭での販売を目指して2~4月末までの期間に制作されます。大部分は零細な農民や小手工業者の内職によってつくられましたが、専業の職人もいたそうです。