台湾のパイワン首長家に伝わる青銅柄の短剣で、パイワンの人々はこの短剣を“ミリミリガン”と呼んでいます。この剣には神霊が宿り、戦争の際には守護霊の役割を果たしたといいます。かつては短剣自身が自由に動き回り、敵を倒したとの伝説も残されています。
この短剣は平時は祭屋内の大黒柱に止め置かれていました。5年に1度行われる祖霊祭「五年祭」の時に、この短剣が保存してある祭屋を開くのみで、平民層はもちろんのこと、首長の妻ですらこの短剣を見ることが許されなかったといいます。そしてこの短剣はトンボ玉の首飾り、古壺とともにパイワン首長家の三宝として知られています。
柄にはバンザイのように両手を挙げた人物像があり、その頭頂部の冠のような飾りには、手をつなぎ合った10体の連続小人像が見られます。柄の両面に人物像があり、それぞれ男性、女性と思われる意匠が見られます。
ところで、この短剣は不思議なことにいまだに誰がどこで作ったのか、その起源がはっきりと判明していません。というのも、台湾には青銅の原料となるスズの産出がほぼ無く、パイワンの人々は金属の加工技術を持っていなかった、といわれているからです。ベトナムなど南方の鋳造技術があるところからの伝来品とする説や、17世紀以降、台湾を統治したオランダ人や大陸からの漢族による製作品とする説があります。
一方で、近年、本品の収集地と同じ台東市の遺跡から青銅の柄を製作するものとみられる石製の鋳型が出土しました。今後こうした考古資料の発見とともにこの短剣の謎が解き明かされるかもしれません。