天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化和洋製菓卸小売并ニ砂糖留以/森川商店暦付引札(わようせいかおろしこうりならびにさとうるい/もりかわしょうてんこよみつきひきふだ)

広告主所在地:京都市西七條
明治43(1910)年11月発行
縦53.1cm×横36.7cm
発行人:大江商会(大阪市東区北久宝寺町) 
資料番号:2009J334H207

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季節が11月に入ると、日頃に買い物をしている商店や、取引きのある会社・事業所などから、来年のカレンダーや手帳などが届きはじめます。その店主や会社の意図は当年のご愛顧と、来年の変わらないごひいきを願っての挨拶(あいさつ)代わりのようなものと言えます。巷間(こうかん)に来年のカレンダーなどを見かけるようになると、年末年始の気ぜわしさの始まりを感ぜずにはいられません。さて、2019年は平成最後の年となりました。その平成31年の干支(えと)は己亥(きがい、つちのとい)で、この干支の亥に対して動物のイノシシが当てられています。猪突猛進(ちょとつもうしん)の猪(いのしし)です。そこで明治時代の亥年にちなんだ、商家の広告 ―引札(ひきふだ)―をご紹介します。
本品は明治44辛亥(しんがい、かのとい)年・西暦1911年用の新暦と旧暦の簡単な暦(略暦=りゃくれき)を刷り入れた広告です。明治時代は引札と呼ばれましたが、現在ではほとんど聞くことのない呼び方でしょう。昨今のちらし・広告やダイレクトメールに近い存在ということができる印刷物で、主に商家の広告として制作され、顧客などに配布されました。引札は江戸時代には既に見ることができます。その後、明治・大正を経て、昭和の大戦が厳しくなる昭和10年代頃まで続き、本品のように縁起の良い吉祥来福を願った絵柄(イラスト)の伴う物が少なくありません。この絵柄を通して、使われていた当時の人々の暮らしの有り様や願望、世情などを垣間見ることができることがあります。中にはその絵柄の意味するところが今となっては分かりにくいものもありますが、本品は比較的、今日に通じる意味を受け取りやすい絵柄と言えます。本品の主役は、笑みをたたえながら干支のイノシシにまたがる福神の恵比寿と大黒天です。この福神二神は特に商家で信仰を集める代表格でしょう。またその遠景には日の出と富士山を置き、足下には小判や宝珠が散りばめてあります。更に画面の下半分は略暦つまりカレンダーとなっています。実用的なカレンダーが付いていれば顧客はこの引札をすぐには捨てず、一年間愛用してくれますし、商店名も自然と覚えてもらえます。この猪、実は明治32(1899)年発行の10円札(日本銀行甲十円券)の裏面に刷られた、走る猪をモチーフにしていると思われ、お金そのものを含意するものであることが分かります。率直な願望が明快に描出されている亥年用の絵柄と言えるでしょう。虹のような色使いの印刷(レインボー印刷)も美しく仕上がっています。