小刀は毎日の暮らしの中で最も身近な道具のひとつでした。腰からさげて携帯し、料理・出漁・彫刻・まつりに使う道具の製作など色々な場面で使いました。刀身や留め具に使うガラス玉などを除いて、鞘(さや)や柄(つか)はアイヌ男性自らが作ります。ことに婚約の記念品や結納品として相手の女性に贈るものは丹誠込めて精緻(せいち)な彫刻を施します。結婚前には鞘だけを女性に渡し、結婚式を済ませてから初めて柄をはめた刀身をその鞘に納めるということもあったようです。この2つの小刀は共に女性用と考えられ、男性用に比べ、全体に反りかえりが強いといわれています。下のものはトナカイか鹿の角を用いています。また、鞘が柄をくわえ込むような呑口(のみぐち)形式という古い様式を残しています。