天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化霊魂の舟“ブラモン”(れいこんのふね“ブラモン”)

インドネシア 南パプア州アスマット地方
20世紀後半
長213.2㎝ 木製
資料番号:

展示中 1-0

本品は、ニューギニア島西部に位置するインドネシア、アスマット地方で行われる霊魂の舟儀礼「ブラモン・ウンブ」の祭具として使用する舟「ブラモン」です。男性彫刻師によって長い時間をかけて一木を彫り刻んで作られました。かつては7メートルを超すカヌーの実物大で作られたそうですが、本品は小型で、比較的新しいものだといいます。
霊魂の舟儀礼は少年達の成人式に行われます。12歳前後の少年たちは、この儀礼の間、儀式用の家に隔離され、夜中以外は外に出られず絶食を命じられます。そして成人式の準備が全て整うと、儀式用の家の中にあるこの舟を戸口へと担ぎ出し、戸が開くのと同時に舟首を突き出させ、前後に揺り動かします。この儀礼後にようやく少年たちは外界へと出ることができ、大人社会への仲間入りを果たします。
この成人式は子どもとしての存在が息絶え、成人として再生する、死と再生の象徴的儀礼を意味しています。そして、この舟はその時に現世と霊界との往復に用いられるのです。
他界観は地域や民族によってさまざまですが、この地域では、霊界が水平方向にあると考えられてきました。人生の末期に迎える本当の死を迎えた時、亡くなった人の霊魂は、この「ブラモン」に乗船し、はるか西方海上にあるという祖霊の世界「サファン」に向けて旅立つといいます。
舟首には両足を投げ出し、前屈した人物像と、その前腕に止まる鳥の像が見えます。そしてその後ろの人物像は、前後の2人が漕ぎ手で、真ん中の2人がワニを担いだ恰好で表現されています。鳥は「サファン」への案内役、ワニは「サファン」への貢ぎ物でしょうか。また、舟尾にも人頭の表現があることから、舟体が胴となり、舟そのものが祖霊の姿を表しているともいえます。