天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化大日本名所一覧(だいにっぽんめいしょいちらん)

慶応初年
縦35.9cm×横122.4cm
金鱗堂清七(尾張屋)版 木版多色刷
資料番号:Z35-M35

展示中 1-0

日本全体を列島の南上空側から、鳥の目で見た俯瞰画(ふかんず)のように表現した横5枚続の錦絵版画です。本図では北は蝦夷(北海道)の松前・箱館から、南は九州薩摩の種子島までを収めています。画作者の喜斎立祥(きさいりっしょう)は画中に記しているように、前広重(さきのひろしげ)、つまり、二代広重が慶応元年(1865)に改名したあとの名前です。従って、本図の作画時期を慶応初年としました。
こうした鳥瞰図は北尾政美{きたおまさよし:鍬形蕙斎(くわがたけいさい):明和元/1764~文政7/1824}が嚆矢(こうし)といわれ、のちに鳥瞰絵師として名高い五渡亭貞秀らにも影響を与えました。
本図では赤い短冊に国名、黄色い短冊に主な都市を表記し、各地の名所も簡略に示しています。一見して諸国の城の天守を強調して図示するのが特徴と言えるでしょう。本図の他例には列島の上下の余白部分に国々の石高を列記したものや、明治に入って児童の地理教育用の参考図にと図題を「小学教授大日本図絵」に改題版行されたものもあります。
全体的に文字情報も効果的に配置され、美しい日本列島図となっています。幕末の世相を示すものとしては、図中の相模横浜の海上に赤い旗を翻した黒船らしき図影3隻がささやかに描出されていることが目に止まります。版元の尾張屋は「江戸切絵図」の版元のひとつです。本図右下の蔵書印から、児玉源太郎の秘書を務めたこともある中国古陶磁研究家の上田恭輔(明治2/1871~昭和26/1951)の旧蔵品とみられます。