メキシコの西部に位置するコリマ、ハリスコ、ナヤリットの各州は、スペインによる征服以前の歴史において表舞台となった地域とは言えませんが、膨大な数のユニークな土器を遺したことで、その特異な文化を今に伝えています。
「西部地方」と総称されるこの地域では、「竪抗墓(けんこうぼ)」という竪穴の底から水平方向に設けられた墓室に、様々な土器が副葬されました。伝統的に血縁関係が社会を規定する軸となっていた西部地方では、祖先を手厚く葬ることが、その一族に代々継承されてきた権力を正当化する上で必要な行為となっていたようです。
掲出の土器は、コリマ州で出土した形象壺です。本体はカボチャを象った器形となっており、縦に入った溝が特徴をよく表しています。ヘタに当たるところには広口の注ぎ口が備えられていて、液体や穀物などの貯蔵に適した形状となっています。
カボチャはアメリカ大陸が原産地で、メキシコを含むメソアメリカ地域では8000年から10000年前の時代には栽培が始まっていたとされます。その後、この地域の主食はトウモロコシとなっていきますが、カボチャは主食だけでは不足しがちな、人間が健康的に生きていく上で必要なビタミンを補う役割を果たしました。カボチャが土器に写し取られた理由には、こうしたメキシコに特有の食文化が反映されているように思われます。
さらに、3本ある脚部に目を移しますと、オウムが体を反り返らせてカボチャを支えている様子が確認できます。くちばしでカボチャを突いて、食べようとしているのでしょうか。何とも愛らしい造形に、当時の人々のユーモアと大らかさが感じられる逸品です。