天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の生活文化飾り盆(かざりぼん)

アメリカ合衆国 アリゾナ州
民族集団名:ホピ
20世紀中頃
径29.0㎝ ラビットブラッシュ、漆
資料番号:13595

展示中 1-0

北米先住民の代表的な伝統工芸のひとつに「かご編み」があります。自然に生えている草や木の根を素材にし、巧みに編み上げることで作り出される編みかごには様々な用途があります。狩猟と採集を生業にしていた時代には、手に入れた食料を収納、運搬、保存するための容器としての役割が最も重要であったはずです。時代が進むにつれ、制作技術の伝播と向上によって、編みかごが果たす役割は多様化していきます。
掲出は米国南西部に暮らす先住民ホピが制作、使用する「ンギャプ」と呼ばれる編みかごの一種です。平面的な円形となっており、トウモロコシで作られるパンなどを上に載せるための「お盆」のような役割を果たします。素材となるのは漆の木の枝と「ラビットブラッシュ」と呼ばれる植物の葉で、前者で骨格となる土台を作り、後者をらせん状に編み込みます。染色には草木に由来する天然染料が用いられ、中心の緑色の円から周縁に向かって描かれた4つの赤い図柄は東西南北の方角を表しています。
この編みかごは実用的なお盆としての用途だけでなく、意外な役割も持ち合わせています。それは長距離走など、ホピの集落の中で開催される運動競技のトロフィーとしての役割です。つまり、宅内の壁にこのような編みかごが掛けられていれば、そこに住む人の中に足が速い人がいるということを暗に示している訳です。標高1,700m以上もあるメサ(卓上台地)の上で暮らすホピの人々は、平地よりも酸素が薄い環境に置かれています。そうした中で鍛えられた肺活量と運動能力で、米国のオリンピック陸上代表となったルイス・テワニマ(1888-1969)という選手がいます。彼が1912年のストックホルム大会、1万メートル走で獲得した銀メダルは今もホピの人々の誇りとなっています。