本品は、神様(王爺)を乗せるための神輿です。王爺の御神体は廟(びょう)内に祀られていますが、祭のときは神輿に乗せられて管轄区域を巡回します。この行為を行うことで、域内の安全が保たれるといいます。
王爺は、主に中国大陸の広東省・福建省や台湾で信仰されている神で、元々は疫病(やくびょう)神でした。しかし疫病神であるばかりでなく、道教の最高神とされる玉皇(ぎょくこう)大帝の命を受け、人の善悪を監視するために人間界へ遣わされた神でもあります。台湾の一部では、厄除(やくよ)けの神として信仰されています。
本品は木材で組まれ、精緻な透かし彫りが施されています(ただし屋根部分はブリキ製です)。透かし彫りの文様には、中国の通俗小説『三国志演義』に登場する「空城(くうじょう)の計」の場面を表現したもの等があります。
「空城の計」とは、以下のような故事です。蜀の国の宰相・諸葛亮(しょかつりょう)が、野戦で魏軍に敗れ、籠城しました。蜀軍は魏軍より圧倒的に兵が少なかったため、諸葛亮は一計を案じました。その計略とは、兵士を隠して城門を開け放ち、諸葛亮が一人で楼台に座り、琴を奏でるというものでした。魏軍の将軍・司馬懿(しばい)はそれを見て、何か罠が仕掛けられているのではないかと過度に警戒し、城攻めをせずに退却しました。
2枚目の写真は「空城の計」の透かし彫り部分で、城の上で琴を弾くのが諸葛亮、中央上部で馬に乗る髭の人物が司馬懿と思われます。