日本の鏡の歴史は、弥生時代に中国や朝鮮半島から持ち込まれた青銅鏡に始まります。青銅鏡の背面には太陽や星、中国の伝説上の神々や獣が描かれていました。使い方も現代のような姿見(すがたみ)ではなく、祭祀で使ったり宝器として大切にしたものでした。古墳時代には宝器や財産として古墳に副葬しました。有名な三角縁神獣鏡もそのような鏡のひとつです。奈良時代以降には神聖な物として寺社に奉納するようになりました。
平安時代になると、鏡は次第に姿見として日常に溶け込んでいきました。片手で持てるくらいの扱いやすい大きさになり、背面には日本風の花や鳥、縁起のいい鶴亀などが描かれるようになりました。室町時代にはまん丸だった鏡に柄が付けられて、ますます使いやすくなりました。
江戸時代になると、女性が大きく結った髪を映すために鏡も大型になる一方、この鏡のように懐や帯の間に入れておいて、ちょっと身だしなみを整える時に使う懐中鏡もできました。どんな鏡にも、美しい文様や縁起物が描かれました。この鏡は長さ10㎝にも満たないのですが、背面には、打ち出の小槌と財産を表す宝珠、知恵を表す巻物が描かれています。
現代のガラス製の鏡は、明治時代に西洋からもたらされたのが始まりでした。それまで1500年以上もの間、鏡は背面にも意味があったのです。