動物の角を模した飲用の器を角杯とよんでいます。もとは獣角でつくっていたものが、陶器や青銅、銀などで模してつくられるようになります。
本例は陶質土器でつくられた角杯です。湾曲した体部は中ほどから強く内彎し、先端がとがります。ジョッキのようにして飲用に用いられました。
朝鮮半島の出土例では角杯を置く台がセットとなったものもあります。角杯の多くは陶質土器ですが、慶州などの王陵級の古墳からは青銅器や漆器の角杯も出土しています。その分布は洛東江の東側に集中してみられます。
我が国最古の角杯は、5世紀前半の橿原市南山4号墳の墳頂で出土した3点の陶質土器のうちの1点です。これらは墳頂での祭祀に用いられたとみられています。角杯は動物形台付角杯とよばれるもので、脚台の上に乗った動物(あるいは騎馬人物)に背負われた格好をしており、朝鮮半島の伽耶の地域からもたらされたものとみられています。副葬品には鉄鋌(てってい)もあり、被葬者は渡来人であったと考えられています。角杯は渡来人の祭祀にもちいられていたのです。
角杯は以後、近畿の周辺地域で多く出土しますが、中には須恵器の窯跡から出土するものもあり、国内で生産されていたことがわかります。各地で出土する角杯は、儀式に際して重要な役割を果たしていたのでしょう。