南イタリアのギリシア植民都市で作られたギリシア陶器です。赤像式とは絵付けの技法で、黒地に赤で図像(ずぞう)を描いたものを指します。自由な筆致(ひっち)で、表現豊かなのが特徴です。高い脚台を有した胴部に広くて長い頸部(けいぶ)がのり、口縁部から肩部にかけて垂直な把手が2つ付いています。このような器形(きけい)をクラテルと呼びます。宴会では葡萄酒を水で割って飲まれていたのですが、その際に用いられたのがクラテルです。つまりクラテルは水割りに使われる実用品です。そんなクラテルですが、大形のものは墓標(ぼひょう)としても用いられることもありました。
把手の先端部は渦巻き状になっていて、ゴルゴネイオンの顔が厄除けの意味で飾られています。ゴルゴネイオンは三姉妹で丸い奇怪な顔をしていて、その眼には人を石にする力がありました。有名なメドューサはその一人です。
描かれている図像は墓と死者です。イオニア式の建物は墓で、その中で座る男性は被葬者です。右手には松明(たいまつ)、左手には香油瓶(こうゆびん)であるアリュバロスを持っています。静かさの中にも動きのある表現と言えます。墓も死者も通常白で描かれます。生者とは別世界であることを示しています。
描かれている図像から判断して副葬品、もしくは実際に墓標に用いられたものであろうと考えられます。埋め尽くされた蔓草(つるくさ)にも優美なギリシア文化を感じざるをえません。