天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術ミルフィオリ杯(ミルフィオリはい)

東地中海沿岸地域
前1~後1世紀
高4.5cm ガラス
資料番号:E96

展示中 3-17

ミルフィオリとはイタリア語で「千の花」という意味です。日本語で言えば万花(ばんか)にあたります。千も万も数え切れない数字で、それほどたくさんの花が咲き誇った様子を表現しています。本例もその名のごとく、紫黒地に赤・黄・緑と色鮮やかな色で表された花が咲き乱れるように散らばった、なんとも言えない美しい噐です。
これは実はガラス製です。ガラスと言えば、今では無色透明なイメージですが、古代ではもともと不透明でいろんな色が付いたものでした。ガラスの主な成分は珪砂であり、古代では原料を川や海の砂から選び出していました。現代のような化学的知識はなく、経験的に適した砂を見つけて行ったようです。陶工たちが良い粘土を探し求めたように、ガラス工人も「ここの砂はいいけどあそこの砂はだめだ」とか言ってたのではないでしょうか。自然の砂ですから当然不純物もたくさん含まれます。こうした不純物が原因で透明なガラスは作れなかったのです。また、もともとラピスラズリやトルコ石のような貴石の代用として登場したのがガラスなので、色が付いていることの方が重要であったことも不透明であった理由でしょう。
さてこの噐、どのように作ったのでしょうか。大きな分類では鋳造法に含まれます。ガラスは粘りけが強く、溶かしたガラスを鋳型に流し込むことは難しいので、鋳型にガラス破片を充填してから熱を加えて溶かして作るのです。本例は一色のガラスではなく、いろんな色のガラスが文様を描くよう配置されていますので、もう一工夫が必要となります。いろんな色ガラスを組み合わせて文様にして作り上げる技法をモザイクと呼ばれます。したがって本例は鋳造ガラスの中でもモザイクガラスに分類されるものです。
まずはいろんな色の細いガラス棒を用意します。これを組み合わせて断面が文様になるようにします。金太郎飴の原理です。本例の場合、花のようになるよう色ガラス棒を配置するのです。重ねますので当然「太巻き」になります。これに熱を加えながら左右に引き延ばして「細巻き」にします。均等に細くなりますので、文様も小さくなりますがきれいに残ります。これを輪切りにしてガラス片として、これを鋳型の外型に一面に貼り付けて、内型を合わせて窯の中で加熱するとできあがります。手の込んだ逸品と言わざるを得ません。