縄文時代には様々な動物を象(かたど)った土製品がつくられています。縄文時代の後期から晩期にかけては、猪や犬、熊などのほか、猿、モグラ、鳥、亀などの動物、貝や、ゲンゴロウ、カマキリ、セミなどの昆虫の土製品も稀(まれ)につくられました。なかでも猪は人気が高かったようで、成獣だけではなく、体に縞模様のあるウリボウ(幼獣)までつくられています。この動物形土製品は青森県や岩手県を中心とした東北地方から多く出土しています。これらは大半が中実(ちゅうじつ)のものですが、なかには中空のものもつくられています。アザラシなどの海獣(かいじゅう)を表したものや亀形をしたものがありますが、亀形が多く出土しています。
写真は平面の形が楕円形をしていて、側面形が紡錘形(ぼうすいけい)をした中空の亀形の土製品です。上面の先端付近には貫通する孔が一つ穿たれていて、その両脇には目のような表現があります。上面には左右対称の位置に大きな蕨手文(わらびてもん)が施されています。裏面にも蕨手文が施されていますが、下端付近の中央には上面と同様の穿孔があります。
体部上面の孔は吹き口で、これを土笛とする見方があります。本例は亀形土製品の中でも大型で、大変丁寧につくられています。これは縄文時代の人々がまつりの場で使用した特別な土笛であったのかもしれません。