古墳に葬られた人が頭を載せた枕(まくら)です。この枕は石製ですが、古墳から出土する枕には、ほかに粘土を焼いて作ったものや自然石を利用したもの、ガラス玉に糸を通して編んだものなどがあります。合わせても200例に満たないので、全国で発掘された古墳の数と考え合わせると、珍しい遺物であると言えます。枕という実用的な役割と、副葬品という意味合いの両方があるという点でも、古墳から出土する品々の中では少し変わった存在です。実用的とは言っても、硬い石をこのように加工して艶やかに仕上げた枕の場合は、葬られた人の富や力を示していると考えてよいでしょう。奈良県天理市の渋谷向山古墳(景行天皇陵)から出土した石枕は、碧玉製(へきぎょくせい)で重さが24㎏もあり、重要文化財に指定されています。
石製の枕は、自然石を用いたものが約50例、加工して形を整えたものが約100例知られており、加工して形を整えたものは半数以上が茨城県と千葉県から出土しています。この地域の枕には、外側に低い面を作って、その低い面や内側の高い面に直径5㎜程度の孔を開け、石で作った勾玉を背中合わせにしたような形の飾りを立てるという独特の形のものがあります。この枕も、勾玉形の飾りは失われていますが、内側の高い面と外側の低い面には孔が開いているので、茨城県か千葉県から出土した可能性が高いと考えています。石の質は茨城県北部の出土例に近いようです。「イラタ」または「イヲタ」と読めるメモを伴っていたのですが、残念ながら手がかりがありません。