天理参考館
TENRI SANKOKAN MUSEUM

参考館セレクション

世界の考古美術アンフォラ把手部分(アンフォラとってぶぶん)

 

 

イスラエル、テル・ゼロール出土
ヘレニズム時代(紀元前二世紀)
長 9.8cm
資料番号:2003A61

展示中 1-0

日本オリエント学会が1964年から1966年にかけて、イスラエルにあるテル・ゼロールの発掘調査を行いました。調査団長であった大畠清氏(当時東京大学教授)は報告書で、調査団派遣に尽力された三笠宮殿下に謝意を述べるとともに、中山正善本館創設者より暖かい援助と精神的支持を受けたと記しています。その時出土した遺物はイスラエルと協議の上、両国で折半されました。持ち帰った遺物は永らく天理参考館に寄託されていましたが、2003年に日本オリエント学会から寄贈されました。学術発掘による出土遺物なので、その資料価値は計り知れません。本例もその1つです。
アンフォラとは地中海域で貯蔵もしくは搬送に用いられた容器で、現在風に言えばコンテナです。細長い筒形胴部に細長い口頸部がのり、頸部から肩部にかけて左右に大きな把手(とって)が付きます。本例はその把手上部の破片です。それ以外の部分は残っていませんでした。
印章が押印されています。中央にある文様はロドス島の象徴であるバラの花です。記されている文字は反時計回りに書かれていて、花の下には「クセノフォーンの(年)」と記されています。その年を有力者名で呼ぶ習慣がありました。こういう風習をエポニム(名祖(なおや))と言います。エポニムの編年はすでになされており、「クセノフォーン」と言う人物は紀元前182年と176年に2度エポニムになっていることが分かっています。したがってこの銘文はいずれかの年を示すことになります。
花の上には「テスモフォリオイ」とあり、ロドス暦10/11月を示します。したがって、この把手を有したアンフォラは前182年もしくは176年の、10/11月に作られたことになります。ここに入れられていた物は、おそらくワインだと推測されます。ビンテージはすでにこの頃からありました。「ロードス産の前182(176)年もの」ということになるのでしょうか。小さな破片ではありますが、残している情報は大きいと言えます。