細部まで丁寧に作った、男性の埴輪です。今は割れてしまっていますが、元は三角巾を立たせたような形の帽子をかぶり、耳飾りを着け、あごには仙人のような逆三角形のひげが伸びていました。現在残っている上半身だけで高さが約50cmあるので、全身が残っていれば優に1mを超える大型品となります。
あごひげを生やした男性の埴輪は珍しく、茨城県と千葉県に分布しており、栃木県出土のこの埴輪は、飛び地のように存在していることになります。茨城県と千葉県の例もこの埴輪と同様に大型品です。特に茨城県つくば市にある中台2号墳から出土したものは、顔つきと耳飾り、あごひげの付け方などがとてもよく似ています。出土地は30㎞近く離れているので、古墳時代に埴輪づくりの工人が移動して製作した可能性を示す、重要な埴輪です。
この埴輪は、明治3(1870)年頃に古墳近くの畑から偶然掘り出され、仏像に似ているからと、当時古墳の上にあった大日如来を祀る祠に一緒に祀られたそうです。明治34(1901)年、古墳近くの畑に放置されていたのを考古学者が発見、学会誌に紹介して初めて埴輪として認知されたという異色の経歴を持ちます。当館が収蔵したのはその約50年後の昭和30(1955)年です。大変な経歴に思えますが、この埴輪が作られて約1500年経っていることを思うと、ほんの最近150年程度の出来事です。