エジプトの個人墓マスタバには、供養のための聖堂が設けられています。聖堂の中には偽扉(ぎひ)と呼ばれる礼拝用の扉形龕(がん:小さな横穴)があります。死者はこの扉を通じて供物を受けると考えられていました。これに文字を刻んだことから供養碑が生じたのです。
本例は新王国時代の供養碑で、沈み彫りと浅浮き彫りで文様を描き、部分的に彩色を施しています。半円形の頂部には聖眼ウジャトが、その下には食事風景が見られます。ヒエログリフの銘文によりますと、上段にいるのは墓主である大臣トトメスとその息子と、下段にいるのは彼の妻とそのほかの家族たちです。供養碑が生存者と死者を結びつけるものであったことがよく分かります。