【重要文化財】
絵本に出てきそうな冠をかぶり、長い髪を結い、顔にお化粧をして首飾りをつけた、まさしく古墳の被葬者である「王」の埴輪です。あぐらをかいて、左腰に下げた刀に手をやる瞬間です。冠と腕と胴体の一部は補修ですが、ほかの部分は実物がのこっています。背中まで造形がしてあるので、服装も推定できます。
人物埴輪は、古墳時代中頃から後期の終わりまで、東北から九州にいたる数え切れないほど多くの古墳に立て並べられました。女性は多くが正装して立っている姿なので、巫女や王に仕える人と思われますが、男性は武人や鷹匠、力士まで、いろいろな姿があります。そのなかで、被葬者を象る例は意外に少ないのです。なかでもほぼ全身がのこっている例は限られるので、この埴輪は貴重です。残念ながら出土地の高崎市八幡原町には大きな古墳は知られていないので、この埴輪がどんな古墳に並べられていたのかわかりませんが、群馬県は全国的に見ても立派な形象埴輪が作られた地域であり、埴輪の種類も豊富でした。高崎市にある保渡田八幡塚古墳では発掘調査の結果に基づいて、王を中心に人々が並びそのまわりに馬や鳥が列をなす、なにかの儀式の様子を表す埴輪列が復元されています。この埴輪も当時は周りに女性や武人、馬、家など、多種多様な形象埴輪に囲まれていたのでしょう。