駱駝は「砂漠の舟」とも呼ばれ、乾燥地帯を越えることのできる唯一の動物です。特に砂漠の多いアラブ世界では、20世紀後半に自動車が普及するまで唯一の輸送手段でした。国土の約4分の1の面積を砂漠がしめる中国へは、ラクダを用いることではじめて横断が可能となり、東との通商路が拓かれました。そして、駱駝は大航海時代までは東西交通の主力となりました。当時、多くのペルシアやアラブの商人達は、駱駝に乗って砂漠を渡り、中国各地を訪れ滞在したことでしょう。唐代の墓より胡人の乗る駱駝が多数出土することからみても、そうした現実を反映しています。
掲出は、立派な荷物を2つのコブの谷間に振り分けて立つ駱駝です。顔は大きく、少し口を開いて前方を凝視しています。荷物に挟み込んだ板材の両端には緑色の宝相華が施され、荷袋には緑と黒の釉薬が施された獣面を描いています。さらに、荷袋をしばったとみられる房の付いた撚り紐が見事に表現されています。駱駝には茶色を基調とする施釉で濃淡をつけ、鮮やかな色釉に覆われた格調高い作品に仕上げています。
造形としての駱駝が多く作られるのは、六朝時代になってからで、特に北魏の作品には名品が多数あります。唐代にはさらに増え、馬と並んで逸品が多く見受けられます。この作品も唐三彩の最盛期、8世紀に作られた名品です。