釉薬を施さない、表面が灰色の中国陶器のことを灰陶と呼んでいます。灰陶には器面に顔料で彩色した彩画陶器と、彩色を施さないものがありますが、掲出の壺のように、浮き彫りで動物文様が描かれている土器は、器面に緑色の緑釉か褐色の褐釉を施すのが通例です。しかし、これには施釉もなく彩色も認められません。現在のところ類似のものは少ないと思われます。
この壺は、重心を下方に置くことで重量感のある堂々とした作風を見せています。大きく広がった口縁部や、膨らみをもつ胴部といった特徴は、漢代青銅器の銅壺を彷彿させます。肩部には浮き彫りで獣文が巡り、その文様構成は、獣の口に環を付けた獣環を間隔をおいて2ヶ所配置、その間に神仙境をイメージした山景文をそれぞれ2ヶ所入れて6つの区画を設けています。さらに、それぞれの区画内に獣を配して獣文帯をつくっています。
獣の配置を区画ごとに右から順に見ていくと、「虎や鳥と2匹の走る鹿」、「横向きに座る熊と鹿や天馬」、「歩く虎」、獣環、再び「歩く虎」、「踊る熊や走る獣と龍」、さらに「歩く虎」、獣環の順で浮き彫りされています。いずれも異なった姿態をとり、どれも躍動感があります。特に4頭の虎は、表現がなんともユニークで目を引きます。
文様に表されたこれらの動物は、よい事が起こる前兆としてその時に姿を現す瑞獣(ずいじゅう)・霊獣(れいじゅう)であり、吉祥辟邪(きっしょうへきじゃ)の象徴として壺に描かれました。この壺はおめでたいときに使われ、縁起物として描かれた山景文とともに、祝い事にはふさわしい逸品です。