口縁部が八曲の花形をなした長杯は、高度で美しいササン朝系金属工芸でも群を抜くもので、中国にも多大な影響を与え、日本では正倉院の金銅八曲長杯でよく知られています。 鍛造で形作っています。文様は主に内面では打ち出しで、外面では削り出しで表しています。内面では、上下左右の4つの窪みに亀甲文装飾が施され、中央の膨らみとともに鍍金が施されています。外面に目を転じますと、同じく上下左右の4つの曲面には聖樹と鳥、その間に六葉円文などが描かれ、その上に鍍金が施されています。 ローマ時代の貝殻形式の銀器に源流があるとされるこれら八曲長杯は、実は学術調査では発掘例がなく、またそれらしきものが描出された例も、わずかに中央アジアにあるペンジケント遺跡の壁画に認められるに過ぎません。著名な資料にしては不明な点が多い資料と言えます。