本品は貴州省の南西部でつくられた、少数民族ミャオ族の女性用衣装です。この地域では13年に一度、「鼓社節(こしゃせつ)」という太鼓を使う祭が行われますが、その際に年配の女性がこの衣装を身にまといます。表面には色とりどりの布が何枚も縫い合わされており(これをアップリケと言います)、さらに多くの精緻な刺繍が施されています。 菱形に囲まれた緑地部分の中心に、龍をかたどった模様があります。この龍の上下左右に4羽みえるのが鳳凰(ほうおう)と思われます。また衣装の上部に、横方向に3匹並んでいるのが蝶々です。このようにさまざまな模様がデザインされた衣装を、ミャオ族の間では「百鳥衣」と呼びます。 本品がつくられた地域には、次のような創世神話があります。その内容は、「大きな樹から生まれた蝶々が、樹の下にある「水の泡」と恋愛して12個の卵を生んだ。卵の1つから人間が生まれ、これが人類の祖先となる。その他の卵からは龍や水牛などが生まれた」というものです。上記神話に基づくと、蝶々は「人間の祖先」で、龍は「人間の兄弟」となります。このことから、百鳥衣に蝶々と龍の模様が描かれたのでしょう。 また衣装下部には、紐飾りが多数垂れ下がっています。紐の先端に鶏の羽が付き、その上部には刺繍が施された四角形の飾りがあります。さらに小さな種のようなものが、数珠玉(じゅずだま)のように紐に通されています。鶏の羽はミャオ族の間で縁起の良いものとされるため、めでたい祭用衣装の装飾に用いたと思われます。