ペルー独立確立200周年 2024 第95回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編―」
PERU BICENTENNNIAL 2024
95th Feature Exhibition
Andes world replected in potteries partⅡ:southern peru
日本で「古代アンデス」といえば、インカ帝国を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、ペルーとボリビアの一部を含む中央アンデス地帯では、実に多様な古代文化が栄えました。古代アンデスでは紀元前3000年頃から神殿が建設され始めますが、土器が登場するのは紀元前1800年頃と、世界のほかの地域と比べて遅かったことに驚かされます。それにもかかわらず、各地で様々な土器がつくられました。
こうした古代アンデスの土器は、19世紀後半に欧米諸国の博物館や美術館によって考古学的に高く評価されます。これがきっかけとなり贋作がつくられるようになりました。そして1950年代に古美術コレクター達によって造形美術としての価値まで付与されると、贋作づくりはさらに盛んになりました。
本展は、2021年に開催した第86回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー北部地域編―」の続編として開催します。そのため、ペルー南部地域とボリビアにまたがって栄えた古代文化を対象として、土器や木器の真作と贋作を同時に展示します。これにより、当時の世界観に触れていただき、それらが現代ペルー社会において古代とは異なる脈絡で再生産されている様子をご覧いただきます。また、山形大学ナスカ研究所および山形大学附属博物館の協力を得て、ナスカの地上絵に関する最新の研究成果と、同時進行で行われている保護活動の現状についてご紹介します。
本展を通じて、ペルー北部地域とは異なる土器や木器の造形をご堪能いただき、現代ペルー社会における文化財をめぐる実状を感じとっていただければ幸いです。
会 期:2024年4月17日(水)~6月3日(月)
休館日:火曜日、4月28日(創立記念日)
時 間:午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料:大人500円・団体(20名以上)400円・小中高生300円
※常設展示もご覧いただけます
会 場:天理大学附属天理参考館 3階企画展示室 【交通アクセス】
主 催:天理大学附属天理参考館
後 援:ペルー大使館・古代アメリカ学会・天理市・天理市教育委員会・歴史街道推進協議会
協 力:山形大学ナスカ研究所・山形大学附属博物館
【PR動画】「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編―」
第95回企画展チラシ(ファイル名:95-chirashi-4.pdf ファイルサイズ:3.36MB)
出品リスト(ファイル名:95-list-3.pdf ファイルサイズ:411KB)
●図録 A4版 カラー20ページ 550円(税込み)
図録の販売についてはこちらをご覧ください。
関連イベント〔要入館券〕
●記念講演会
「ナスカの地上絵と人工知能:新展開の現地調査をめぐって」
2024年5月4日(土・祝) 午後1時30分~3時〔地下1階研修室 開場/午後1時〕
講師:坂井 正人氏(山形大学教授)
定員:100名(当日先着順)
受講料:700円(入館料含む)※当日午前9時30分より受付にてチケットを販売します。
●トーク・サンコーカン(当館学芸員による講演会)
「インカってなに?」
2024年4月24日(水) 午後1時30分~3時〔地下1階研修室 開場/午後1時〕
講師:荒田 恵(当館学芸員)
定員:100名(当日先着順・要入館券)
★同日開催★ ペルー産コーヒー特設カフェ
午後1時~3時30分〔2階ホール〕
1cup:220円
●ギャラリートーク(マンデートーク) 全3回(各回別内容)
①2024年4月22日(月)
②2024年5月20日(月)
③2024年6月3日(月)
いずれも午後0時30分~午後1時20分〔3階企画展示室〕
講師:荒田 恵(当館学芸員)
●体験コーナー
「地上絵を探せ!」
会期中常時開催〔3階ロビー〕
●映像コーナー
「ペルー独立確立200周年 2024」関連
「ナスカの地上絵と神殿をめぐる巡礼 巨大な地上絵の分布規則」
会期中常時開催〔3階ロビー〕
ブログ 布留川のほとりから
・ナスカの地上絵研究の世界的権威、坂井正人先生による記念講演会のお知らせ 2024.5.1【第95回企画展ブログ1】
・ペルーのコーヒー 2024.5.15【第95回企画展ブログ2】
・天理大学の授業で参考館を活用 2024.5.17【第95回企画展ブログ3】
・第95回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編」の見どころ(Ⅰ部) 2024.5.22【第95回企画展ブログ4】
・第95回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編」の見どころ(Ⅱ部) 2024.5.27【第95回企画展ブログ5】
・第95回企画展「器にみるアンデス世界―ペルー南部地域編」の見どころ(Ⅲ部) 2024.5.29【第95回企画展ブログ6】
出品予定資料(一部)
I部 器から読み解く古代アンデス世界
I部では、古代アンデスの南部地域の土器や木器の真作をご覧いただくことで、それぞれの古代文化の世界観に触れていただきます。
対象としているのは、ペルー南海岸のパラカス文化(紀元前800年頃~紀元後100年頃)、ナスカ文化(紀元後100年頃~650年頃)、イカ・チンチャ文化(紀元後1200年頃~1450年頃)、ペルー中央海岸のチャンカイ文化(紀元後1000年頃~1470年頃)、ペルー南高地からボリビア、チリにかけて影響を及ぼしたティワナク文化(紀元後500年頃~1150年頃)、そしてペルーを中心にコロンビア、エクアドル、ボリビア、チリ、アルゼンチンの6ヶ国にわたる広大な領域を治めたインカ帝国、さらに植民地時代までの約2600年間の時代です。
それぞれの文化に特徴的な器形やモチーフからは、古代アンデス文化の多様性を感じ取っていただくことができます。一方で、儀礼の器であるコップ型ケロのように時代や文化を超えて用いられるものもあります。器に表現された動物や神々を通して、古代アンデスの人々の信仰や暮らしに思いを巡らせてください。
II部 再生産、消費される古代文化
II部では贋作と推定される資料を展示しています。本展では贋作を、古美術マーケットでの売買を目的として、傷のない本物として偽られていると考えられる資料としています。そのため本展では、①全くの贋作にくわえて、②破損部分を補修したもの(※「部分的贋作」として展示)、③もとはレプリカ土器であったと推定されるものも贋作に含めています。
ペルーにおける贋作づくりは、19世紀後半に欧米諸国の博物館が古代アンデスの土器を考古学的に評価したことをきっかけに始まりました。そして、1950年代に古美術コレクターの間で造形美術としての価値が付与されると、さらに需要が増えていき、贋作づくりはますます盛んになっていきました。
同じころ、リマの新聞社がスウェーデン、ドイツ、アメリカ、そしてリマの博物館に展示されていたパラカス文化の土器が贋作であることを報じました。その記事はペルーの著名な考古学者への取材をもとに書かれましたが、贋作者本人への取材も行われ、彼は自身の作品であることを明言しました。そして、この1950年代は贋作づくりの技術が進展した時代でもあります。
贋作づくり初期は、盗掘などによって破損した場所を補修して完形品のように見せかけたり、違う土器の破片を接合して、より複雑で新しい造形の土器がつくられたりしました。当時は、破片を丁寧に接合した後、消えた図像を水性塗料で描いて、その上から艶出しの透明ラッカーを塗って仕上げるというのが一般的な方法でした。 ところが、1950年代に入ると、鉱物由来の泥漿(でいしょう)で彩色する贋作がつくられるようになりました。とりわけその対象となったのはナスカの土器で、1950年代から1960年代にかけて大量のナスカ土器の贋作がつくられました。しかし、これらの贋作は時期が異なる図像を組み合わせたり、焼成が不十分であったりするため、比較的容易に真贋判定ができるといわれています。そのため、参考にした図像などが推定できた資料については、真作の図像や写真と見比べながら資料をご覧いただけるように関連パネルを資料の近くに展示し、資料、キャプションに受入れ年代を記載しています。
贋作でありながらも古代の世界観を垣間みることができ、現代ペルー社会の古代文化の再生産の在り方を感じ取っていただける展示になっています。
III部 ナスカ研究の最前線
山形大学ナスカ研究所と山形大学附属博物館の協力を得て、2023年3月15日から5月12日まで山形大学附属博物館で開催された「地上絵の謎と保護」展の展示パネルをお借りして、ナスカの地上絵に関する研究を紹介しています。
第Ⅲ部はパネル展示のみですが、①「山形大学のナスカ研究の歩み」、②「研究者たち」、③「地上絵の謎」、そして④「地上絵の保護」の4つに分かれています。
①山形大学のナスカ研究の歩みでは、世界で唯一地上絵の調査が許可されるようになった経緯や、1920年代に地上絵が発見されてから現在までの調査方法の変遷がまとめられています。②研究者たち、では情報科学、認知心理学、考古学、AI研究、環境地理学、文化人類学の研究者による学際的な研究成果が紹介されています。③地上絵の謎では、地上絵の変遷、地上絵が描かれているナスカ台地の自然環境について説明されているほか、巨大な地上絵は聖地カワチ神殿への巡礼ルート沿いに描かれていること、そしてそれに先立つ小型の地上絵は、聖地カワチ神殿の中につくられた大ピラミッドの建築軸になった山のふもとにある住居址を結ぶルートを移動する際の道標であったと考えられていることが紹介されています。
④地上絵の保護では、山形大学ナスカ研究所がペルー文化省、在ペルー日系人社会そして日本人の有志と連携して地上絵の保護活動に取り組んでいることが紹介されています。2017年にナスカ市近郊に地上絵保護公園を設立したり、3代目の展望台の設置に尽力したりなど、現地社会に受け入れられながら海外調査を継続して行っていることが分かります。
そして展示室外のホールでは、これまでのナスカ研究の集大成である「ナスカの地上絵と神殿をめぐる巡礼 巨大な地上絵の分布規則」の映像を上映しています。日本にいながら、上空からナスカの地上絵を見るができるだけでなく、研究成果も分かりやすく紹介されています。また、併設している体験コーナー「地上絵を探せ!」では、300分の1に縮尺された航空写真マットにのって地上絵を探すことができます。映像をご覧いただくと、体験コーナーをより楽しむことができます。
参考館セレクションでは当館が収蔵する約30万点の資料の中からセレクトして一部を紹介しています。本展に展示する資料も以下のリンクより詳細をご覧いただけます。資料名をクリックして下さい。