第93回企画展「インドのヒンドゥー世界」
93rd Feature Exhibition Hindu World in India
広大な領域、悠久の歴史をもつインドにおいて、ヒンドゥー教は多くの人々にとって精神文化の柱であり続けてきました。そして現代においてもヒンドゥー教は人々の習慣、社会制度、芸術などに深い影響を与えています。
本展では館蔵資料の中から神々の姿を表した神像や宗教画に注目して、ヒンドゥー教の神々や神話について探ります。また、祭祀の道具や仮面、楽器など祈りや芸能のかたちを通して、インドの人々の信仰を基盤とした生活の一端を紹介します。さらにヒンドゥーの神々や神話が東南アジアにも伝播していく様子もご覧いただきます。
ヒンドゥーの世界はなかなか馴染みの薄いものかもしれませんが、グローバル化が進んだ今日、様々な宗教を信仰する人々と接する機会も増えてきています。本展がインドの宗教的知識を深め、異文化理解の一助になることを期待します。
会期:2023年7月12日(水)~9月4日(月)
休館日:7月18日(火)・8月8日(火)・13日(日)~17日(木)・22日(火)・29日(火)
時間:午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
入館料:大人500円・団体(20名以上)400円・小中高生300円 ※常設展示もご覧いただけます
会場:天理大学附属天理参考館 3階企画展示室 【交通アクセス】
主催:天理大学附属天理参考館
後援:在大阪・神戸インド総領事館、天理市、天理市教育委員会、歴史街道推進協議会
協力:JICA奈良デスク、天理大学附属天理図書館
●出品リスト(ファイル名:p93_list.pdf ファイルサイズ:2125KB)
●第93回企画展チラシ(ファイル名:93-chirashi.pdf ファイルサイズ:3.37MB)
関連イベント
●記念講演会
「天理大学附属天理参考館のインド古彫刻をめぐって」
日時:2023年7月15日(土) 午後1時30分~3時(開場 午後1時)
講師:山岸 公基氏(奈良教育大学教授)
会場:天理参考館 研修室
定員:100名(当日先着順)
●トーク・サンコーカン(講演会)
「インド神話の神々とその伝播」
日時:2023年8月25日(金) 午後1時30分~3時(開場 午後1時)
講師:早坂 文吉(当館学芸員)
会場:天理参考館 研修室
定員:100名(当日先着順・要入館券)
●ギャラリートーク(展示解説)
日時:2023年7月26日(水) 午後1時30分~2時30分
会場:天理参考館 企画展示室(要入館券)
●インドの楽器 シタール&タブラの演奏会
日時:2023年8月26日(土) 午後1時30分~
演奏者:田中 峰彦氏(シタール)・田中 りこ氏(タブラ)
会場:天理参考館 エントランスホール(入場無料※展示室をご覧になる場合は入館券が必要です)
●ワークショップ「スパイス講・考・香―スパイスのお話とお香づくりのワークショップ―」
日時:2023年7月22日(土) 午後1時30分~3時30分
講師:前田 知里氏(里山文庫)
会場:天理参考館 研修室
参加費:2,000円(入館料・材料費含む)
定員:20名(要事前申込み)
ブログ 布留川のほとりから
・注目の仏像を裏側まで! 2023.7.21【第93回企画展ブログ1】
・「インドのヒンドゥー世界」展、展示の裏話 2023.8.26【第93回企画展ブログ2】
- 参考館関連ニュース
第93回企画展「インドのヒンドゥー世界」
2分24秒
- 天理参考館この一品
第7回
「インド・トールボンマラータ」2分34秒
- 天理参考館この一品
第37回
「インド・祈りの道具」2分59秒
- 天理参考館こころ
第20回
「闇を彩るもの ―明かりの道具と光の芸術―」
13分10秒
- 天理参考館こころ
第32回
「神とともにある暮らし ―インド社会の風景―」
11分27秒
I 神々の姿と神話の世界
【古代インドの神仏】
私たち日本人の多くがインドと聞いて連想する一つが仏教発祥の地であろう。古代インドの宗教の歴史を見ていくと、紀元前1500年頃に中央アジアからインドへ移住したアーリヤ人が先住民を支配、混淆していく過程でまずバラモン教が誕生した。紀元前5世紀頃、バラモン教がもつ身分制度「ヴァルナ」を否定し、平等を唱え誕生したのが仏教やジャイナ教である。そして4~6世紀にバラモン教から派生し、興隆したのがヒンドゥー教であった。これらの宗教は、もともとは同じ伝統の上に発展していったのである。
さて、バラモン教は特定の神像を造ることはなかったといい、仏教が仏像を盛んに造るようになったのは紀元後1世紀(クシャーン朝)の時代とされる。一方、ヒンドゥー教の造像の起源は定かではなく、一説には紀元前2、3世紀から民間信仰の神像が造られたというが、ヒンドゥー寺院の造営にともない本格的に神像が造られるようになったのは5世紀以降といわれている。
【ヒンドゥー教の神々】
ヒンドゥー教の神々は長い歴史の中で、石、木、土、金属による偶像、絵画などでその姿が形作られてきた。また、ヒンドゥー教は多神教であり、主たる神々は、時代とともに土着の幾多の神々を吸収することにより、一神格がさまざまな性格、職能を持ち、それぞれ異なった姿で表現されることもある。こうした神々の姿は寺院だけにとどまらず、路傍の祠や家庭内の祭壇、商店など、人々のありふれた日常生活のごく身近なところで見ることができる。
ここではヴィシュヌ神、シヴァ神をはじめとするさまざまな神々の姿、そして祭壇に安置する神像から市販されている神格が描かれたポスターに至る多様なかたちを紹介するとともに神話の世界にも触れてみたい。
II 神々と暮らす
【祈りの道具】
ヒンドゥー教の神々への礼拝方法には、バラモン教以来のヴェーダ祭式の儀礼とプージャー(礼拝・供養)がある。ヴェーダ祭式の儀礼の特徴は神像を用いず、神々を祭場に招き、供物を火にくべて捧げるという形を採ることである。一方、プージャーは神を招き入れた神像に、水や香を献じて浄め、花、灯明、香煙、そして食べ物などを捧げて祈る。
ヒンドゥー教徒は寺院に参拝するだけでなく、家庭内の神聖な空間に礼拝場所を設け、日々家庭でのプージャーを執り行い、自分たちの神々との交流を保っている。掲載している資料は、細かな収集地までの記録が残されていないが、インド南部のものが多く、寺院や祠、家庭内など様々な礼拝場所から集められたと考えられる。
【芸能と音楽】
本来、芸能や音楽は宗教や儀礼と強い関わりを持っている。殊にインドにおいては「ダマル」という太鼓を持ち、踊るシヴァ神のように神自身が楽器を奏で、舞うこともある。神話や伝説は、舞踊や仮面劇、人形劇、絵語りなど様々なかたちで演じられ、語り継がれてきた。インドの多くの人々は信仰生活の中に生き、芸能・音楽を通して演者は神々と一体となり、観衆は神話の世界に浸るのである。
【風俗人形】
祭礼用または土産物として露店などで販売されていた人形であろう。当館は海外の習慣・文化を学ぶ博物館として創設されたことからこうした風俗人形を世界規模で収集しており、インドの人形もその一環で集められたものである。生き生きとしたインドの伝統的な暮らしを垣間見ることができる。同時にこれらはインド独特の社会制度であるカースト(世襲的な職業集団や序列意識)を考える上での資料にもなり得るだろう。素焼きの土人形に彩色がほどこされている。様々な職業の人形に加え、シヴァ神や「インド独立の父」として日本でも知られるガーンディー(ガンディー)の姿もみられる。
III ヒンドゥー文化の広がり
インドでは早くは紀元前2世紀ごろから紀元3世紀のはじめごろの間に、ローマや漢との国際交易が盛んに行われ、インド商人がその交易ルートの中継拠点となった東南アジア、にマレー半島周辺へと渡ったと考えられている。グプタ朝期(320~520年頃)に入ると司祭階級であるバラモンが、ヒンドゥー教、そして二代叙事詩『ラーマーヤナ』『マハーバーラタ』などに関連するヒンドゥー文化を東南アジアへと伝えたといわれる。13世紀頃より、東南アジアでは上座部仏教やイスラームが盛んになると、次第にヒンドゥー教の神々はそれまでのような形では信仰されなくなった。しかしながらヒンドゥー神話はそれぞれの土地の言語で翻訳、翻案され、文学や美術、芸能の中に取り込まれた。インドネシア、バリ島においては、現在でも多くの人々が土着の宗教と混淆した「バリ・ヒンドゥー」を信仰している。ヒンドゥー文化は今日まで様々な形で東南アジアに息づいているのである。
ここでは東南アジア資料の中から、インドのヒンドゥー文化の影響を受けたもの、またはヒンドゥーと土着の文化が融合した造形を紹介する。